第二部において重要な位置を占めることになる「ダーク」のメモ。
結末に絡む最終目標の存在ではないけれど、ダークによって登場人物達は次々と蝕まれていく。
終わりなき絶望の連鎖と思われたダークだが、サムライのカンナだけが蝕まれることなかった。
カンナの口から初めてダークについて語られる独白の回。
第2部
・第1章
・第X話-2
ダークによって次々と蝕まれていくフォスター達。
その範囲は止めどなく拡大を続け、既に一つの都市を巻き込むほどの影響を及ぼしていた。
姿を確認することすら出来ないダークは、こつ然と現れ、ウィルスのごとく悪種をばら撒き消える。
一度でもダークに触れたものはその侵食に抗うことも出来ず命を蝕まれていく。
そんな中にあって、唯一変わらない存在がいた。
サムライの元長であるカンナだった。
ダークとは彼が操っているのではないか?
そんな疑念はついに実行手段へとうつされる。
カンナは囲まれ、身の潔白を証明することを強要された。
サムライには手を出せば、そこにあるのは死だ。
しかしこのまま蝕まれれば、どのみち死が待ち受けていることは明確であった。
人々は死のジレンマに身を捩らせ何かの合図を待っているようだ。
もう何もかも関係ない。
殺してしまえばいい。
死んでしまえばいい。
そういう類の合図だ。
しかし、それを自ら発することは躊躇われる程度の僅かな意識は残っていた。
カンナはいつになく神妙な顔をすると意を決したのかゆるゆると語りだした。
「ったく、人類って種は学習能力ってのがまるで無いんだなぁ。
・・・思い出すだけで胸糞悪い。
全員ここで斬り捨ててもいいが・・・それもメンドクサイな。
理解できるかどうかはわからないが・・・」
「勿体ぶるな。早く言え。お前がやったんだろう」
「やっちまえ。コイツに決まってる」
「待て。何も知らないままただ死をまつだけなんて俺は嫌だ」
「ごたごた言ってんじゃねー。殺せ」
怒号が入交る中、話を聞きたい民衆と、今すぐにでも彼に襲いかかりたい者たちの間で小競り合いがおきだす。
彼はすっくと立ち上がり、その小競り合いの輪に向けて剣を抜いた。
「ひぃっ」
それを見た前列側の人々から微かな悲鳴がもれ、後すざりと同時に数人はドミノの倒しのごとく倒れる。
それに気づいた小競り合いの中心にいた5人は身が硬直したのがわかった。
「お前らって・・・本当にバカだねぇ」
彼はそう言って呆れた顔をすると再び座り、ダークについて語り出す。
いつの間にか剣は鞘におさまっていた。
「まー・・・あれだ。
まずおまえたちの間で噂されている、ウィルスとか悪霊とか言われているのは、俺達の間では昔からダークと呼ばれている」
ざわめく周辺を一切意に介さずカンナは話を続けた。
「ダークはニューマンのせいでもフォースのせいでも新種のウィルスでもなんでもない。俺にもダークの影響はあるが、無効化させているに過ぎない」
再びざわめいた。
「ニューマン以外の人類は必ずダークをもっている」
ざわめきは一層大きくなり、うねりをもちだした。
「嘘をつけ。それじゃ、その宿にいるニューマンはなんで全身がああなんだ」
うねりの中を一際大きな怒号がそう語りかけた。
「あー、全身ブチになっているヤツか。あれはニューマンテラーの発作だ」
一部から悲鳴が上がり、その一角から怒号がとんだ。
「やっぱりニューマンだ。ニューマンがウィルスをばら蒔いているんだ」
うねりは方向性をもち、騒ぎは爆発的に膨れ上がる。
その膨張は急速にすすみ、矛先は宿にいるニューマンへと注がれた。
民衆が今まさに一斉に走りだそうとした瞬間、耳をつんざく大音声が満たす。
人々の膨れ上がった憎悪の風船は一瞬で破裂し、その場にいる全員がその音のする方向を見た。
「がたがたウルセーぞクソ共が。
人が丁寧に応えてやりゃあ頭に乗りやがって・・・
今すぐ全員たた斬ってもいいんだぞ。あん?!
ニューマンじゃねーって言ってんだろうが、この雑魚どもが。
てめーらの脳みそは発酵しすぎて腐ってんじゃねーのか。
たまには取り出して水であらいやがれ」
全員が固まったまま凝視していることに気づいたのか、
右上の虚空を一瞥すると言葉をついだ。
「あー・・・・めんどくせぇなぁ。
フォスター・・俺は無理だよ」
大きく息を吸うと、意を決したのかいつになく大きな声で高らかに説いた。
「 回りくどい話は終わりだ。
ダークは俺の刀で力を弱めることが出来る。
俺の気が変わる前に始めるぞ。
このクソ共、一列に並べ。
ガタガタ言うヤツにはやらん。
それと、
俺を怒らせたらその瞬間に中止だ」
人々はまるで蟻の集団のように粛々と一列に並びだした。
文句を言うものはおろか、疑問を呈する者もおらず、怒号が交じることもなかった。それどころか列が乱れそうになると、列を誘導するために自分は列から外れ交通整理する者が誰からともなく現れた。カンナに何かをされた者達は口々に感動の声を上げ、しばらく忘れていた笑顔を取り戻し、抱き合い、涙を流し喜んだ。老いた者達は彼に手を合わせ、子供たちはそれを真似る。
「待て待て待て待て、俺に手を合わせるな」
彼がそう言うと、またどこからともなく声が上がった。
「皆が終わるまで、あの方に手を合わせないで下さい。出来れば後ろの人にも伝えて下さい」
そう言うと、声のリレーが始まっていた。
カンナは一度頭を振ったが、直ぐに始める。
そうしたやり取りは夜中まで続いた。彼が開放される頃には街は久方ぶりの笑い声がそこここから響き、お祭りのような騒ぎとなっていた。
「バアちゃん、気持ちはわかった。
わかったよ。これは頂くから、今日はもう寝な。もう何ももってこなくていいから。
皆にも伝えてくれ。
はい。
はい、はい。はーい」
安宿の木戸を締め、ほとほと疲れたといった顔をしたカンナ。外では、貢物のごとく食べ物をもった民衆が押し寄せている。それを、いつの間にか構成された親衛隊よろしい街人が彼らを締めだすを手伝いし、中には皆を広場に誘導した。広場は足跡のお祭り会場となっていた。それだけではなく、気配からすると門衛のように何人かが周囲に立ち、侵入を防いでいるようだ。比較的そうしたことに慣れた街人であるようだ。
フォスターが笑みを浮かべている。
「まったく、お前はあんなことよくやるよ。
知らないってのは幸せだねぇ。全く連中ときたら呑気なもんなだ」
「カンナ、呑気もいいじゃないか」
「見ようによっちゃ入れ食いなのによぉ。こんなんじゃ手も出せねぇんだから」
「ちょっと!お父さん。何か言った。尊敬したと思ったら結局はそこなの」
「これだよ。何も見えてないヤツは・・・」
「何よ」
フォスターが人差し指を口に当てたのを見て言葉を飲み込んだカンナは、本当に語らなければいけないことがあると告げ、くってかかるエルディナ、貢ものとなった食事を貪るジオーサの二人を尻目に、何より横たわるジュゲに向け語りかけた。
「お前らも知っておいた方がいいだろう。ダークは妖刀でしか斬れない。しかし、ダークを斬るということは、もう一人の自分を斬り捨てるということを意味する。ニューマンがダークの影響を受けないのは、俺やフォスターが知る限りニューマンはダークを持たないからだと考えられる。同時にニューマンは妖刀では斬れないことを意味する。ヒューマンはダークをもつが、ダークの存在を理解していないし、その存在を把握すら出来ない。我々サムライはダークの存在を太古より知り得ているが、その存在を感じることは直接的に出来ない」
カンナが語りだしたことは、真相へと繋がる糸口を秘めていた。
それは新たな障害を認知したと同時にどうしようもない現実を突きつけられることになった。
ニューマンテラーに蝕まれる彼女にとっては、死刑宣告にも似た酷い言葉が連なった。
云々かんぬんで続く。
結末に絡む最終目標の存在ではないけれど、ダークによって登場人物達は次々と蝕まれていく。
終わりなき絶望の連鎖と思われたダークだが、サムライのカンナだけが蝕まれることなかった。
カンナの口から初めてダークについて語られる独白の回。
第2部
・第1章
・第X話-2
ダークによって次々と蝕まれていくフォスター達。
その範囲は止めどなく拡大を続け、既に一つの都市を巻き込むほどの影響を及ぼしていた。
姿を確認することすら出来ないダークは、こつ然と現れ、ウィルスのごとく悪種をばら撒き消える。
一度でもダークに触れたものはその侵食に抗うことも出来ず命を蝕まれていく。
そんな中にあって、唯一変わらない存在がいた。
サムライの元長であるカンナだった。
ダークとは彼が操っているのではないか?
そんな疑念はついに実行手段へとうつされる。
カンナは囲まれ、身の潔白を証明することを強要された。
サムライには手を出せば、そこにあるのは死だ。
しかしこのまま蝕まれれば、どのみち死が待ち受けていることは明確であった。
人々は死のジレンマに身を捩らせ何かの合図を待っているようだ。
もう何もかも関係ない。
殺してしまえばいい。
死んでしまえばいい。
そういう類の合図だ。
しかし、それを自ら発することは躊躇われる程度の僅かな意識は残っていた。
カンナはいつになく神妙な顔をすると意を決したのかゆるゆると語りだした。
「ったく、人類って種は学習能力ってのがまるで無いんだなぁ。
・・・思い出すだけで胸糞悪い。
全員ここで斬り捨ててもいいが・・・それもメンドクサイな。
理解できるかどうかはわからないが・・・」
「勿体ぶるな。早く言え。お前がやったんだろう」
「やっちまえ。コイツに決まってる」
「待て。何も知らないままただ死をまつだけなんて俺は嫌だ」
「ごたごた言ってんじゃねー。殺せ」
怒号が入交る中、話を聞きたい民衆と、今すぐにでも彼に襲いかかりたい者たちの間で小競り合いがおきだす。
彼はすっくと立ち上がり、その小競り合いの輪に向けて剣を抜いた。
「ひぃっ」
それを見た前列側の人々から微かな悲鳴がもれ、後すざりと同時に数人はドミノの倒しのごとく倒れる。
それに気づいた小競り合いの中心にいた5人は身が硬直したのがわかった。
「お前らって・・・本当にバカだねぇ」
彼はそう言って呆れた顔をすると再び座り、ダークについて語り出す。
いつの間にか剣は鞘におさまっていた。
「まー・・・あれだ。
まずおまえたちの間で噂されている、ウィルスとか悪霊とか言われているのは、俺達の間では昔からダークと呼ばれている」
ざわめく周辺を一切意に介さずカンナは話を続けた。
「ダークはニューマンのせいでもフォースのせいでも新種のウィルスでもなんでもない。俺にもダークの影響はあるが、無効化させているに過ぎない」
再びざわめいた。
「ニューマン以外の人類は必ずダークをもっている」
ざわめきは一層大きくなり、うねりをもちだした。
「嘘をつけ。それじゃ、その宿にいるニューマンはなんで全身がああなんだ」
うねりの中を一際大きな怒号がそう語りかけた。
「あー、全身ブチになっているヤツか。あれはニューマンテラーの発作だ」
一部から悲鳴が上がり、その一角から怒号がとんだ。
「やっぱりニューマンだ。ニューマンがウィルスをばら蒔いているんだ」
うねりは方向性をもち、騒ぎは爆発的に膨れ上がる。
その膨張は急速にすすみ、矛先は宿にいるニューマンへと注がれた。
民衆が今まさに一斉に走りだそうとした瞬間、耳をつんざく大音声が満たす。
人々の膨れ上がった憎悪の風船は一瞬で破裂し、その場にいる全員がその音のする方向を見た。
「がたがたウルセーぞクソ共が。
人が丁寧に応えてやりゃあ頭に乗りやがって・・・
今すぐ全員たた斬ってもいいんだぞ。あん?!
ニューマンじゃねーって言ってんだろうが、この雑魚どもが。
てめーらの脳みそは発酵しすぎて腐ってんじゃねーのか。
たまには取り出して水であらいやがれ」
全員が固まったまま凝視していることに気づいたのか、
右上の虚空を一瞥すると言葉をついだ。
「あー・・・・めんどくせぇなぁ。
フォスター・・俺は無理だよ」
大きく息を吸うと、意を決したのかいつになく大きな声で高らかに説いた。
「 回りくどい話は終わりだ。
ダークは俺の刀で力を弱めることが出来る。
俺の気が変わる前に始めるぞ。
このクソ共、一列に並べ。
ガタガタ言うヤツにはやらん。
それと、
俺を怒らせたらその瞬間に中止だ」
人々はまるで蟻の集団のように粛々と一列に並びだした。
文句を言うものはおろか、疑問を呈する者もおらず、怒号が交じることもなかった。それどころか列が乱れそうになると、列を誘導するために自分は列から外れ交通整理する者が誰からともなく現れた。カンナに何かをされた者達は口々に感動の声を上げ、しばらく忘れていた笑顔を取り戻し、抱き合い、涙を流し喜んだ。老いた者達は彼に手を合わせ、子供たちはそれを真似る。
「待て待て待て待て、俺に手を合わせるな」
彼がそう言うと、またどこからともなく声が上がった。
「皆が終わるまで、あの方に手を合わせないで下さい。出来れば後ろの人にも伝えて下さい」
そう言うと、声のリレーが始まっていた。
カンナは一度頭を振ったが、直ぐに始める。
そうしたやり取りは夜中まで続いた。彼が開放される頃には街は久方ぶりの笑い声がそこここから響き、お祭りのような騒ぎとなっていた。
「バアちゃん、気持ちはわかった。
わかったよ。これは頂くから、今日はもう寝な。もう何ももってこなくていいから。
皆にも伝えてくれ。
はい。
はい、はい。はーい」
安宿の木戸を締め、ほとほと疲れたといった顔をしたカンナ。外では、貢物のごとく食べ物をもった民衆が押し寄せている。それを、いつの間にか構成された親衛隊よろしい街人が彼らを締めだすを手伝いし、中には皆を広場に誘導した。広場は足跡のお祭り会場となっていた。それだけではなく、気配からすると門衛のように何人かが周囲に立ち、侵入を防いでいるようだ。比較的そうしたことに慣れた街人であるようだ。
フォスターが笑みを浮かべている。
「まったく、お前はあんなことよくやるよ。
知らないってのは幸せだねぇ。全く連中ときたら呑気なもんなだ」
「カンナ、呑気もいいじゃないか」
「見ようによっちゃ入れ食いなのによぉ。こんなんじゃ手も出せねぇんだから」
「ちょっと!お父さん。何か言った。尊敬したと思ったら結局はそこなの」
「これだよ。何も見えてないヤツは・・・」
「何よ」
フォスターが人差し指を口に当てたのを見て言葉を飲み込んだカンナは、本当に語らなければいけないことがあると告げ、くってかかるエルディナ、貢ものとなった食事を貪るジオーサの二人を尻目に、何より横たわるジュゲに向け語りかけた。
「お前らも知っておいた方がいいだろう。ダークは妖刀でしか斬れない。しかし、ダークを斬るということは、もう一人の自分を斬り捨てるということを意味する。ニューマンがダークの影響を受けないのは、俺やフォスターが知る限りニューマンはダークを持たないからだと考えられる。同時にニューマンは妖刀では斬れないことを意味する。ヒューマンはダークをもつが、ダークの存在を理解していないし、その存在を把握すら出来ない。我々サムライはダークの存在を太古より知り得ているが、その存在を感じることは直接的に出来ない」
カンナが語りだしたことは、真相へと繋がる糸口を秘めていた。
それは新たな障害を認知したと同時にどうしようもない現実を突きつけられることになった。
ニューマンテラーに蝕まれる彼女にとっては、死刑宣告にも似た酷い言葉が連なった。
云々かんぬんで続く。
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